YOUは何しに東北へ?東北で働く外国人たち~株式会社コミューナ編~
2024年2月、東北大学片平キャンパス。東北高度外国人材活躍推進コンソーシアム(以下、東北コンソーシアム)のキックオフ会合終了後、サイドイベントとして、東北企業と留学生の交流会「FUTURE IN TOHOKU:日本で働く、東北で働く」が開催された。
「2019年に台湾から来日し、株式会社コミューナで翻訳者・編集者・国際プロジェクトコーディネーターとして働いています。犬派、そしてたけのこの里派です。」
柔和な笑顔で自己紹介をしたのは、株式会社コミューナ(宮城県仙台市)に勤める王友安さん。自身もかつて、東北大学に在籍していた留学生だった。東北企業で生き生きと活躍する先輩の姿を見て、会場の現役留学生たちの顔も自然と和む。
株式会社コミューナは、「通訳・翻訳」「アート・デザイン」「マーケティング」を3本柱に、ウェブサイトや映像の制作、アートコーディネート、販路開拓の支援などを展開する企業。翻訳を土台とする会社の業態ゆえ、常時複数名の外国人社員が在籍している。
前回の「スズキハイテック株式会社編」に引き続き、東北で活躍する外国人たちの素顔に迫るべく、株式会社コミューナを訪問した。
株式会社コミューナ訪問
―王さんの来日のきっかけ・経緯を教えて頂けますか?
(王さん)兄の影響で、子どもの頃から、日本のアニメを観ていました。有名なものだと、ワンピースとか。ライトノベル系も好きで、「とらドラ!」などもハマりました。
(堀井さん)どうやって日本語のアニメを観ていたの?
(王さん)字幕付きのものを観ていました。最初は何も意識していなかったのですが、だんだんと「あれ、意味が分かるかも!?」と、日本語を聞き取れるようになってきて。
―アニメの力はすごい!
(王さん)大学の専攻は英語でしたが、第二外国語で日本語も勉強しました。先に東北大学に留学していた高校の同級生から話を聞き、自分も交換留学プログラムで東北大学へ留学しました。
―コミューナのことはどうやって知ったのですか?
(王さん)留学時代の先輩が、社長と飲み友達で(笑)
―想像のナナメ上を行く回答でした(笑)
(王さん)弊社では、「Visit MIYAGI」という、宮城県の観光情報発信サイトを作成・運営しているのですが、当時、英語版しかなかったウェブサイトを、多言語化しようとしていました。繁体字版も作成予定だったので、社長からその先輩に、「台湾人を紹介してほしい」と話があり、私を紹介してくれました。
(堀井さん)弊社社長の斎藤は、その先輩である大学教授Vさんの飲み屋選びのセンスをすごく信頼していて、「Vさんが紹介する王さんなら間違いない!」と(笑)もちろん、他の応募者と比べ、翻訳の能力も抜群でした。
―なるほど。人の縁って大事ですね。黄さんは、何か日本に関心をもったきっかけはありますか?
(黄さん)私は読書が趣味で、日本の文学作品が好きでした。夏目漱石や、大江健三郎の作品などをよく読んでいました。
(堀井さん)村上春樹とかじゃないんだ。渋いね(笑)
(黄さん)それで、王くんと同じく、大学時代の第二外国語で日本語を履修し、4年生の時に筑波大学に交換留学をしました。卒業後は台湾の日系企業に就職したいと考えるようになり、様々な企業の面接を受けた末、最終的に、広告代理店に就職しました。
―コミューナへの就職前に、母国の日系企業で働かれていたんですね。
(黄さん)はい。ただ、就職活動中は自分が何をしたいのか、あまりよく分かっていなかったのですが、就職して半年くらい経った頃には、軸が固まってきました。日本の何が好きか?を突き詰めて考えたとき、日本の文化・デザイン力が好きだと感じ、それに携わる仕事がしたいと思うようになりました。
そんな時、仙台市が運営する海外人材と仙台企業のマッチングサイト「Morijob」で、王くんの記事を見て、「この会社に入りたい!」と思ったんです。
―どんなワード検索でMorijobに辿り着いたのか、気になります・・・!
(黄さん)王くんは、当時、「communa STUDIOS」というYouTubeチャンネルで動画を配信していて、日本に興味がある台湾人の間では、少し有名でした。その動画の中で、仙台を紹介していたので、仙台に興味が湧き、Morijobの記事を見つけました。
―いくら日本に興味があっても、なかなか一足飛びで東北・仙台に着目してもらえることはないので、謎が解けました。
(黄さん)ちょうどその頃、コミューナが台湾の大学で開催された合同企業説明会に参加していたのですが、私は参加できなかったので、事後、社長に直接メールを送りました。その際は、「今は募集をしていないけれど、翌春なら採用枠があるかもしれない」と言われて。翌春に、再度連絡をしたところ、面接・試験を経て採用となり、秋から就職しました。
―行動力が素晴らしいですね!晴れてコミューナに就職された現在は、どのようなお仕事をされているのでしょうか?
(王さん)Visit MIYAGI繁体字版ウェブサイトの編集長のような役割をしており、翻訳に加え、進行管理も行っています。また、宮城県石巻のお茶ブランド「kitaha」の台湾市場開拓の支援も担当しており、最近、お客様とともに現地へ市場調査に行きました。
(黄さん)弊社独自の工芸品の越境ECサイト「奥心舎」の広告の運用・プランニングをしています。私も、自治体の海外販路開拓支援の仕事をしており、鳥取県の工芸品の海外展開促進のため、1月にパリでポップアップストアを開催しました。
―日本文化への理解と語学力を有するお二人ならではの仕事ですね。お二人は留学経験があり、特に王さんは、学生時代から仙台にいらっしゃいますが、東北・仙台で働く良さは何でしょうか?
(王さん)仕事について言えば、地方では東京ほど仕事が細分化されていないので、事業の中心メンバーになることができます。人手不足の反面、色々な経験ができるのも魅力です。
プライベートの面では、景色がキレイで、特に仙台は程よく都会で生活しやすいですね。
(黄さん)東京で働く友人たちを見ていると、仕事に追われて大変そうに感じますが、仙台では自分のペースで、余裕を持って働けています。出身地の台北より緑が多く、自然と都会のバランスが取れているように思います。
―お二人とも、自然・景色の良さを挙げていただきましたが、オススメの場所はありますか?
(王さん)有名な観光地も良いですが、近所の何気ない景色も素晴らしいです。例えば、広瀬川。各地で色々な川を見てきましたが、一番キレイなんじゃないかと思います。
(黄さん)ポーちゃん(注)もいるしね!
※注:地元の方が飼っているポニー。1日に2度、広瀬川でお散歩をしている、仙台の有名人(馬)。
―私も広瀬川のすぐそばに住んでいますが、散歩コースにとても良いですよね。ポーちゃんにも、癒やされます(笑)
(堀井さん)私は仙台出身ですが、外国人のみんなが価値を認めてくれることで、意識していなかった地元の良さを再認識できますね。
―コミューナさんは、仕事柄海外のお客様とも接点が多く、社長も常に海外を飛び回っておられる印象です。外国籍社員の方も多いので、日本人社員の方も、外国人と働いてみて、意外に感じたことなどはないでしょうか?
(菅原さん)私は入社3年目になりますが、弊社に在籍している外国籍社員のみなさんは、既に日本文化にも馴染み、日本語もとても上手で、一緒に働いていて全く違和感がないです。
(堀井さん)通訳・翻訳を仕事としている以上、入社される方々は皆、日本語能力が高いというのはありますが、それ以上に、社長が「自分と一緒に仕事をしたい人」を選んでいるので、波長が合うといいますか、国籍の違いをあまり感じません。
弊社は、そこまで規模が大きくない中で、従業員のおよそ3分の1が常に外国人、しかも、宮城県出身者か外国人しかいないという、変わった会社です(笑)ただ、色々な地域の人がいる他の会社とあまり変わらないんじゃないかな、と思います。
―外国人と他県の出身者は似たようなもの、というのは、東北コンソーシアムで作成した高度外国人材活躍事例集で紹介している、岩手・西和賀町の温泉旅館「山人-yamado-」さんが仰っていた、「住民以外はみんな外国人」という感覚に通じますね。「日本人」「外国人」の垣根を意識しないという一方、語学力以外の面で、外国人材が社内にいるメリットを感じることはありますか?
(菅原さん)私はデザイナーですが、海外のお客様がメインターゲットの場合、現地目線でリアリティを感じてもらえるデザインを作るのは難しいものです。書籍等の情報を参考にすれば、例えば「台湾っぽい」デザインを作ることはできるのですが、台湾の方々から見ると「ニュアンスが違う」と感じられることも少なくありません。外国で日本っぽく作られたデザインを、日本人が「何かニュアンスが違う」と感じるのと同じですね。
社内にターゲットとなる国・地域の社員がいれば、そうした細かなニュアンスの違いや、最近の流行もすぐ聞くことができ、デザインの再現性を高め、説得力を持たせる上で、非常に助けられています。
(堀井さん)確かに、海外向けの広告ツールの制作を依頼されたお客さんから、「これはネイティブ目線から見てどうなの?」と電話で聞かれたときに、後ろを振り返ってその国の出身者に確認し、すぐにレスポンスを返せるというのは、強みですね。
―外国人の方が日本で働く場合、住居を借りるのが難しい、車の免許がない、など、生活面でも困難が多く、会社側がサポートをする場合もあると聞いています。コミューナではそのようなサポートをされていますか?
(堀井さん)そこまで特別なサポートは行っていませんが、住居については、賃貸人から、保証人を要請されたり、会社で借りて欲しいと言われたりもするので、求めに応じて対応しています。あとは、一緒に部屋探しをしますね。
(王さん)コンペを開催して(笑)
(堀井さん)そうそう。家探しをしている新入社員に、住みたい家の条件を出してもらって、条件に合った家をみんなでプレゼンしたりしています。
―コンペには景品も出るのですか?
(堀井さん)黄くんのときは台湾菓子だったかな?そして何故か、代表が獲得するという(笑)だいたい、みんな自分の近所の家ばかり勧めてきます。
(王さん)自分の地域が一番住みやすいと思っていますからね。
―部屋探しもイベントになって、楽しいですね!
取材を終えて
「コミューナの社員は、みんな好奇心が強い。わざわざ日本に来て働いている外国人の子たちは尚更」(堀井さん)という言葉どおり、仕事でもプライベートでも、何事も楽しみながら前向きにチャレンジされている王さんと黄さん。
日本人の同僚たちが(そしてインタビュアーを務めた私も)、「外国人」であることを忘れるほど、すっかり日本・東北の職場に溶け込んでいた。
思えば、外国人材が活躍する東北企業に話を聞くと、「採用募集をしたら応募があったのがたまたま外国人でした」「外国人だからと、特別なことは何もしていません」と答えが返ってくることも割と多い。
外国人採用・定着の秘訣を引き出したいライター泣かせの回答なのだが(笑)、ガイコクジンという色眼鏡で見るのではなく、見知らぬ土地に初めてやってきた人に接するのと同じように、分からないこと、困っていることには手を差し伸べる―こうした感覚で向き合うことが、外国人との共生に向けた近道なのかもしれない。
(文:こまち)
【取材協力】株式会社コミューナ
【参考】高度外国人材活躍事例集(東北版)についてhttps://www.tohoku.meti.go.jp/s_kokusai/topics/240514.html