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YOUは何しに東北へ?東北で働く外国人たち~スズキハイテック株式会社編~

「そういえば最近、コンビニのレジで外国人の店員さんが増えたなあ・・・」
そんな風に思ったことはありませんか?

それもそのはず、外国人労働者の数は右肩上がりで増加し、昨年、全国で200万人を突破。東北地域の経済も、約5万人の外国人労働者の方々に支えられている
私は東北大学片平キャンパスのほど近くに住んでいることもあり、地元のコンビニのレジで日本人を見ることのほうが稀なほどだ。

【出典】厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ』より東北経済産業局作成

コンビニの例で明らかなとおり、外国人が日本で働く大きなきっかけの一つが、留学である。しかし、留学生が学生時代に日本でアルバイトしたからといって、卒業後もそのまま日本で働くかといえば別問題だ。

日本学生支援機構のアンケート調査によると、令和3(2021)年度、日本で学ぶ留学生のうち、58.0%が卒業後も日本で就職を希望しているが、実際の国内就職率は32.7%にとどまっている。

【出典】(独)日本学生支援機構(JASSO)「令和3年度私費外国人留学生実態調査」(令和4年9月)をもとに東北経済産業局作成。留学生の国内就職率は(注3) JASSO「2021(令和3)年度外国人留学生進路状況調査」(令和5年3月)参照。


日本での就職を希望しながらも、企業とのミスマッチなど、何らかの理由で帰国を余儀なくされている留学生が少なくない
ということだ。

日本の高等教育機関を卒業した留学生は、日本の文化・慣習への関心・理解があり、高度な知見とグローバルな視点を持ち合わせる。彼らが日本企業で活躍することは、企業ひいては日本経済の活性化、グローバル化とイノベーション創出にもつながる。
留学生が日本で「働きたい」と思いながらも帰国してしまう現状はもったいない。

そこで政府は、留学生の国内就職率を60%まで引き上げるという目標を掲げ、この実現に向け様々な取組を始めている。その一つが、経済産業省が開始した「高度外国人材活躍地域コンソーシアム事業」だ。

これは、留学生を中心とした高度外国人材の活躍推進による地域企業の海外展開促進・地域経済活性化を目指し、地域内の産官学関係者から構成されるコンソーシアムが、高度外国人材の地域での就職促進・定着を図るプログラムを実施するというもの。

東北地域でも、2024年2月に「東北高度外国人材活躍推進コンソーシアム」(以下、東北コンソーシアム)が設立され、同月、キックオフ会合が開催された。

「東北コンソーシアム」キックオフ会合

キックオフ会合(2024年2月)の会場となった東北大学「知の館」前。
当日の天気は、雪の予報だったが、門出にふさわしく、晴れ晴れとした青空が広がった。

「私は、日々の業務において、
①  郷に入っては郷に従え。
②  報連相(報告・連絡・相談)を怠らない。
③  聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
といった点を心がけています」

・・・今年大ヒットしたTVドラマ「不適切にもほどがある」のように、昭和にタイムスリップしたのか、と錯覚するこのスピーチで会場のどよめきを呼んだのは、スズキハイテック株式会社(山形県山形市)で働くペトルス・ヤサヤ・サモリさん。

キックオフ会合で講演するスズキハイテック株式会社のペトルスさん

ペトルスさんは、インドネシア・パプア州出身。
山形県とパプア州が姉妹県州であることをきっかけに、山形大学へ留学。両県州の「架け橋になりたい」という思いで、県内企業への就職を希望。大学の就職支援の先生にスズキハイテック株式会社を紹介され、社長の熱意に感銘を受けて、同社へ就職。

山形大学の博士課程(バイオ工学専攻)まで修了したペトルスさんは、スズキハイテック研究開発部門の若きリーダーとして大活躍。実は最近、著名経済誌でも紹介されるなど、この界隈ではちょっとした有名人なのだ。

「自然豊かでどの季節も楽しむことができ、人も温かく、生活費も安い。留学生のみなさん、東北で働くことを考えてみてはいかがでしょうか?」

流ちょうな日本語でアピールし、スピーチを締めくくったペトルスさん。

このコンソーシアムの立ち上げに奔走した東北経産局職員(私)としては、東北企業で活躍する外国人材の優秀さと、東北で働く魅力を、他の企業・現役留学生に発信してくれた素晴らしいスピーチにただただ感動するばかり。

しかし、ここまで記事を読まれたみなさん、
「ちょっと出来過ぎじゃない?!」
とお思いではないでしょうか。

分かります。仰りたいことは、よく分かりますよ。ペトルスさん、優秀過ぎるし、来日・東北企業への就職に至るストーリーが何とも美しすぎる…

実際のところ、外国人留学生は、なぜ東北地域に留学・就職をするのか。東北で働き、何を思うのか―その本音を探るべく、ペトルスさんの勤務するスズキハイテック株式会社にお邪魔することにした。

スズキハイテック株式会社へ突撃取材!

スズキハイテック株式会社は、自動車などのめっき加工を手がけ、ちょうど今年で創業110周年(1914年創業)となる山形の老舗中小企業。

スズキハイテック本社(会社HPより)

2014年、メキシコ法人設立にあたり、公用語のスペイン語が話せる技術者を採用することとなったが、日本人では適任者が見当たらず、山形大学に留学していたボリビア人を採用したのをきっかけに、外国人材の採用を開始。

翌15年には、現在の5代目・鈴木一徳社長が就任。受注生産型から開発主導型企業への脱却を図る中で、モチベーションの高い外国人材の採用を加速

現在では、従業員185名のうち、外国人社員が73名と、約4割に上る(2024年3月時点)という、山形が生んだ超ダイバーシティ企業である。

今回は、前出のペトルスさんを含め、東北地域に留学し、同社へ就職された5名の外国人社員の方々に話を伺った。


右から、グルンさん、ビニタさん、ペトルスさん、カナルさん、パタクさん(ペトルスさん以外の4名はネパール出身)。一番左は、人事を担当されている武田さん。

―お忙しいところ、5名ものみなさんにお集まりいただき、ありがとうございます。先日の東北コンソーシアム・キックオフ会合では、ペトルスさんから来日や就職の経緯をお話いただきました。他のみなさんはどうして、日本に留学し、スズキハイテックに入社されたのでしょうか。

(ビニタさん)ネパールの大学時代、たまたま日本語学校でアルバイトをしていたのですが、日本への留学経験を持つ先生の勧めで、仙台の専門学校へ留学することにしました。合同企業説明会で社長とお会いしたことがきっかけで、スズキハイテックに入社しました。

ペトルスさんと同期で、入社6年目(取材当時、以下同様)のビニタさん。

(グルンさん)私もネパールの大学から東北の専門学校へ進学しました。学校の先生の紹介でスズキハイテックを知り、入社を決めました。 

―そもそも来日のきっかけは何だったのでしょうか。
 
(グルンさん)えっと…(沈黙)
 
―フォーマルな理由でなくてもいいですよ。
 
(グルンさん)YouTubeの日本のコンテンツが好きでよく見ており、日本に関心がありました。既に日本にいた友人からも、「日本人は優しい」と聞いていたので、留学を決めました。
 
―等身大の若者らしい理由が聞けて、むしろ安心しました(笑)

入社2年目のグルンさん。
ネパール人のパートナーもスズキハイテックに勤務されている。

(パタクさん)私は、姉夫婦が、日本でネパールカレー店を経営しているのを見て、「自分も日本で働きたい」と思い、名古屋の日本語学校に留学しました。ネパール人の先輩から、日本で就職をするなら専門学校でITスキルを身につけた方が良いと勧められ、日本語能力に不安がある外国人へのサポートが充実した山形県の専門学校を紹介され、入学しました。
 スズキハイテックには、学校の先生から紹介され、同じ国の先輩が多くいたこともあり、入社を決めました。
 
―ネパールカレー!スズキハイテックさんの周辺に2号店を出されたら、繁盛しそうですね(笑)既にご家族や友人が日本にいれば安心ですし、良い話を聞けば来日の決め手になりますよね。


同じく入社2年目のパタクさん。
入社前は、山形県内の専門学校(情報システム関連)に在籍されていた。

(カナルさん)私も、仙台の日本語学校・専門学校に留学をしましたが、最初は、東京・大阪といった大都市で就職活動をしていました。しかし、たくさん、面接に落ちました(笑)
 
ー安心してください。日本人(含む私)もたくさん、面接に落ちています(笑)就職活動では語学力が壁になったのでしょうか?
 
(カナルさん)はい、応募した他の企業では、高い日本語レベルが求められ、就職活動がうまくいきませんでした
 そんな中、学校の先生に、スズキハイテックを紹介され、まだ日本語能力が高くない自分でも受け入れてくれたこと、母国の先輩たちが多く働いていることが決め手となり、入社しました。


23年4月に入社したばかりのカナルさん。
取材を前に、回答の原稿まで用意してくれてました…とっても真面目!!

―ペトルスさんは、日本語が堪能で、引く手あまただったのではと思うのですが、就職活動中の苦労はありましたか。
 
(ペトルスさん)日本では、博士号を持っていると、就職先を探すのが大変です。就職先を探し回り、何とか、東北他県の大手医療系メーカーの最終面接まで進み、スズキハイテックからは内定を頂くことができました。前者では、自分の専攻を活かすことができましたが、山形に残りたい気持ちが強かったのと、新しい分野にチャレンジしてみたいという思いが勝り、スズキハイテックに入社しました。


日本語堪能なペトルスさんでも、就職先を探すのは大変だった。

(ビニタさん)私も、母国の大学で経済学の博士号を取得していたので、専門に合った就職先はなかなか見当たりませんでした。スズキハイテックの扱うめっきは、全く専門外の分野でしたが、ペトルスさんと同様、新しいことにもチャレンジしてみようと前向きに捉えました。
 
―博士号保持者の就職問題は、日本人と変わらないお悩みですね。

(グルンさん)私は夜にアルバイトをしながら学校に通っていたので、まず生活が大変でした。当時まだ2歳の娘をネパールに置いて来日したので、寂しかったというのもあります。


日本語の話せないパートナーとお子さんを連れ、日本で働くグルンさん(中央)。
ビニタさん(左から二番目)も、「まだまだ娘と一緒に日本語を勉強中」と言う。

―私も今子どもが3歳なので、大変さが想像できます…。そうしたご苦労を経て就職された現在は、どんなお仕事をされていますか。また、仕事をする上でのお悩みはありますか。

(カナルさん)自動車メーカーに供給される、ガソリン噴出するための部品の検査を担当しています。日本人社員の方々が話す方言の訛りを理解するのが難しいときもありますが、日本人・外国人問わず先輩たちに優しく教えてもらいながら、仕事に取り組んでいます。

担当ラインで作業をするカナルさん

(パタクさん)インジェクター事業部でチームリーダーをしています。バングラデシュ人20名、ネパール人7名から成るチームで、バングラデシュ人の部下と会話が通じないときは、日本語が話せるバングラデシュ人のリーダーに協力してもらい、意思疎通をしています

―課題に直面したら、同じ国籍の、あるいは国籍を超えた社員同士でサポートし合うのは、多国籍の社員が集うスズキハイテックならではですね。

(パタクさん)はい、自分自身も、めっきについての知識はゼロでしたから、最初は先輩からネパール語で説明してもらい、仕事を覚えました
 今では、ネパール人社員向けの日本語講師として、月2回、社内勉強会でネパール人の同僚たちに日本語を教えていますが、業務よりも日本語を教える方が難しいです(笑)

(ペトルスさん)私は新規事業の開発を担当しています。研究開発は、大学の研究室でずっとやってきたことなので慣れていましたが、営業は難しかったです。お客さんとのコミュニケーションの中で相手の意図を読み取る営業のスキルは、経験値がモノを言うので、最初は苦労しましたが、徐々にコツを覚えて慣れてきました

―営業は、母国語でも難しいのに、文化も違う異国の地でとなると尚更ですよね。
 ちなみに、ペトルスさんは、中小企業庁が支援する新規事業(注)にも取り組まれていると聞きました。当局HPにも事業の概要が掲載されているのですが、ド文系の私にはとても難しい内容でした…もう少しわかりやすく教えていただけませんか?

(注)成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_sangi/index_sangi.html#kenkyu

(ペトルスさん)一言でいうと、生物の優れた機能を模倣し、製品化するプロジェクトです。今弊社で注目しているのは、フナムシの脚の表面の構造です。素早く水を拡散させる働きを持っており、これを例えば、車のヘッドライトに応用すると、水滴がついても瞬時に水が拡散し、凍るのを防ぐことができます。

―なるほど。ペトルスさんが大学で学ばれたバイオ工学の専門知識が、今のお仕事に活きているのですね!


新規事業について解説してくれたペトルスさん。
「めっきとは無関係」と思っていた大学の研究が活かされている。
スクリーンに映るのは、フナムシの脚の表面を模倣して設計した流路。

―これまで、苦労話ばかり聞いてしまいましたが、東北地域、あるいはスズキハイテックで働いて良かった!と思うことはありますか。

(ビニタさん)やはり人間関係ですね。弊社では、日本語がつたなくても、一生懸命話しかけると、周りの同僚たちが何でも優しく教えてくれます

(クマルさん)入社前に会社見学をしたときから、社長が、日本人・外国人を問わず、知識がゼロレベルでも構わない、会社に入ってからできるようになると言ってくれ、安心しました。

(カナルさん)私は仙台の学校を卒業し、入社したばかりですが、会社が色々なところに連れて行ってくれるので、楽しいです。


入社1年目のカナルさん(右から1番目)。会社のバスツアーで、社員との交流が深まったそう。

―同僚の方々が連れて行ってくれるのですか?

(武田さん)外国人の方々は、特に入社したてだと、移動手段を持っていないことが多いです。そこで社内交流も兼ね、日本人・外国人問わず、若手社員向けのバスツアーを会社で企画しています。
 今年度は、春はさくらんぼ狩り、夏は海、秋は紅葉、冬はスキー・スノーボードと、季節に合わせ、大型バス2台を貸し切って旅行し、山形の良いところを知ってもらう取組をしています
 
―まさに山形ならではのラインナップですね!私も参加したいです(笑)

取材を終えて


今後は、日本語能力とめっきの知識をさらに高め、スズキハイテックでもっと活躍していきたい、と話してくれたみなさん。

母国から遠く離れた日本・東北で働く中で、外国人特有の苦労を抱えつつも、日本人の若者と変わらない素顔と、日本人も見習うべき真面目さ・謙虚さ・向上心を持ち合わせていた。

ちなみに、東北コンソーシアムでは、今回取材をしたスズキハイテックをはじめ、高度外国人材が活躍する東北企業を紹介する事例集を作成した。

人材不足の課題を抱えつつも、「外国人と働くイメージが湧かない」「コミュニケーションが取りづらいのでは」と何となく敬遠されている方は必見。日本で懸命に働く外国人たちの横顔を知ると、「なんだ、日本人と変わらないな!」と身近に感じるかもしれませんよ。

(文:こまち)

【取材協力】スズキハイテック株式会社
https://www.sht-net.co.jp/

【参考】高度外国人材活躍事例集(東北版)について
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_kokusai/topics/240514.html