ほやおやじのほやゼミ食堂に行ってみたら、ほやの極みだった。
ある日の昼休み。
ランチの店へと急ぐため、宮城県庁のロビーを通ると、人だかりが。今日は何のイベントかな~?とのぞいてみると、
牡蠣、ホタテ、ワカメ、海苔・・・水産物フェアのよう。
声:ほや、いかがですか~?
顔を上げると、満面の笑みでほやを売る男性。
ほや屋:この「ほやの極み」は、徹底的に鮮度管理した新ブランドなので、臭みも全くありません。煮ても焼いてもおいしいですよ~!
ほや。
ちょっと磯臭いような、苦みのあるような、宮城県民のソウルフード。夏が旬で、居酒屋で刺身で食べたり、母が作るほや酢(キュウリと酢であわせる)のイメージ。へぇ~、煮たり焼いたりできるのか。
「お役に立てることあれば」と名刺をいただく。
ほやのキャラクターが入ったその名刺には、会社名とお名前、そして・・・
ーほやおやじのほやゼミ食堂??
思わず口に出してしまう。
ほやおやじ木村さん:はい、ほや料理をフルコースで腕によりをかけて提供します。この「ほやの極み」を使った料理はもちろん、冬はほやのしゃぶしゃぶ、雑炊、ピザもあります。よろしければ、ご利用ください。
歩きながら、名刺のQRコードを読んでみると、
会社案内のトップスライダーに目が止まる。
ほやに生涯を捧げると誓ったほやおやじ・・・?
ホームページを読み進めると、木村さんは、30年間勤めた保険会社を早期退職し、53歳でほやの専門会社を起業。それから20年近く、ほやに携わり、その魅力を全国に広める活動を行っているそう。
三陸常磐地域の水産振興を担当していることもあるけれど、
シンプルに、木村さんとお話してみたい!という気持ちが高まり、
人生初「ほやのフルコース」の予約を入れたのでした。
ほや研究所・ほやおやじのほやゼミ食堂に到着
休暇を利用し、仙台市中心部から北西に車を走らせて約30分。小高い丘の住宅地に、ほやゼミ食堂はあった。木製の「ほや研究所」と書かれた看板に目がとまる。
少し緊張しながらインターホンを押すと、ガチャリとドアが開いて、中から青いエプロンを付けコック帽をかぶった男性がニコニコしながら出迎えてくれた。
ほやおやじと名乗るその男性は、株式会社三陸オーシャン 代表取締役であり、宮城ほや協議会・副会長でもある木村達男さん。
ほやの絵が上品に飾られた玄関で靴を脱ぎ、中に入ると・・・
そこは、ほやワールド。
壁には、ほやの看板や絵、クイズ、ほやにまつわる説明書きが、廊下のテーブルの上には、ほやのフリーペーパーがずらりと並ぶ。
よく見たくて何度も足が止まってしまう。
部屋の奥のダイニングルームに入ると、本日のメニューが書かれた大きな黒板が。おなかがすいてきた。
ほやおやじ木村さん:では、はじめますか。
木村さんはエプロンのひもをキュッと結び直すと、キッチンに入っていく。
ほやおやじ木村さん:まずはこちらからどうぞ。
最初に出てきたのは、あの県庁イベントで見た「ほやの極み」のお刺身。
いつも食べるほやの刺身より、艶やかで美しく上品。口に入れると、塩味と同時に新鮮な甘味を感じる。じゅわっと磯の香りがして、ほやのうま味が柔らかく広がる。(この感動、伝わるだろうか)
ーところでなぜ、30年間も勤めた会社を辞めて、ほやの販売を始めたのでしょうか。
ほやおやじ木村さん:以前の会社では営業として長く勤めていました。なかなか経験できないような海外研修もありましたし、それなりに充実していましたが、年齢を重ねて、第二の人生を考えた時、これからは自分の好きなことをやって生きていきたいと思うようになりました。
ーどうして「ほや」だったんですか。
ほやおやじ木村さん:私はお酒が飲めないけれど、食べることや料理を作ることも大好きなんです。次は、食に携わる仕事がしたいと思い、水産関係の知り合いに相談したんです。そうしたら「加工品がほとんど作られていない、「ほや」がいいんじゃないか」って。
その当時、ほやは生食ばかりで、加工品は乾きものくらい。挑戦してみる価値があると思いました。仕事で全国を飛び回って、おいしいものもたくさん食べてきましたから、自信もあったんです。
ー実際にスタートしてみて、いかがでしたか?
ほやおやじ木村さん:知り合いもほとんどいませんでしたから、最初は漁港に何度も足を運んで、顔を出して、あいさつをして、漁師さんに顔を覚えてもらうところから始めました。ほやの加工に詳しい人も周りにいなかったので、自分で試行錯誤しながら加工品を作って、展示会や商談会にも参加し、ほやの商品をPRしました。
ー商品の反応は、いかがでしたか?
ほやおやじ木村さん:おいしいと言ってくれる人もたくさんいましたが、「ほや」という文字を見ただけで、避けられたり、
「ほやだけは勘弁してください」
と試食もせず、断られることも少なくありませんでした。
ーほやは独特の風味がありますからね。好き嫌いがあるとはいえ・・・その反応は悲しいですね。
ほやおやじ木村さん:新鮮なほやは、臭みなどありませんし、栄養価も高く、とてもおいしいものなんです。ほやのイメージを変える必要があると強く感じました。
ほやのフルコース
気さくにお話してくださりつつ、ほやおやじ木村さんは、ほや料理を次々と提供してくださる。
正直、ほやの加工品といえば、東北新幹線の車内販売で売っているオレンジ色の箱入りしか見たことがなかったのだが・・・。(ご存じだろうか)
想像以上に豊富なレシピに、舌を巻く。
どれも本当においしかったです。ほや、すげー!!
東日本大震災を乗り越えて
ほやといえば、東日本大震災でのことを聞かずにはいられない。
ー震災の影響はいかがでしたか?
ほやおやじ木村さん:震災の時は、女川の委託工場にあった設備や製品も全部流されてしまって、流石にもうダメだな、続けられないなと思いました。でも、すべてを流されてしまった漁師さんや、他の水産加工業者の皆さんに比べたら、自分の被害なんてまだましな方です。ここで、自分が逃げ出すわけにはいかない。ほやが復活するまで、事業を継続することを決めました。
ー大変なご苦労をされたのでしょうね・・・
ほやおやじ木村さん:大変でしたが、多くの現場で多くの人との出会いがありました。多くの仲間とつながり、協力を得て、ほやに対するイメージを少しづつ変えてこられたと思います。自分一人でがんばらないことも大事です。できないことは、力を借りて、協力してもらっています。
ほやの未知なる可能性を追求して
ー今後の展望についてお聞きしたいです。
ほやおやじ木村さん:ほやのおいしさは無限大。まだまだ、可能性があります。だから、私にはやることがたくさんあるんです。これからも、現場に立ち続けるつもりです。多くの人にほやの魅力を知ってもらって、好きになってもらえるとうれしいですね。
食事の後は、ほや食堂に隣接の「ほや研究所」をご案内いただいた。作業台や冷蔵庫、食品加工装置などが置かれていて、まさに研究所。
ほやおやじ木村さん:今、新しい試作品を作っているところなんですよ。こちらも自信作です。
そう言って、試作品のほやのからすみを見せてくださった。
ほやおやじ木村さんの挑戦はまだまだ続く。
「ほやは、嫌われているからこそ、可能性を感じる」と語るほやおやじ木村さん。
鮮度落ちが早いほや。ほやの食べ方やさばき方にはコツが要る。
もっとおいしく、もっとたくさんの人に食べてほしい。
なんとなく食べていた「ほや」だが、木村さんのような熱意と愛情を持った方々の存在が、「ほや」の魅力を高めているのだと感じた。
三陸常磐の海は、”水産物”だけでなく、自然に対峙し、海の幸を愛する”人”に恵まれている。
(文:ミヒー)
三陸・常磐地域の水産業は、東日本大震災によって深刻な影響を受け、現在も、燃油価格の高騰や水産資源減少等のさまざまな問題に直面しています。
経済産業省は、復興庁・農林水産省とも協力し、官民連携の枠組みである「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」を立ち上げました。産業界、自治体、政府関係機関等から広く参加を募り、水産物等の売り手と買い手を繋げることで、「三陸・常磐もの」の魅力を発信し、消費拡大を図っています。