伝統工芸ってなんだっけ?暮らしの道具の本質を探る、家具職人たち
今回伺ったのは、「木響」という家具工房を営む関谷周一さんと佐々木淳一さん。
椅子やテーブルなど、現代のわたしたちの生活になじむ家具とともに、仙台箪笥の修理や制作に携わっています。
「伝統工芸」という話をすると、
真っ先に出てくるのが「守り続ける」「次世代につなぐ」「貴重な技術」のような言葉。
口数が少ない職人さんが、工房にこもって作業していて、弟子がいて…というような風景を思い描いてしまいがちです。
でも、「木響」さんたちの想いは、わたしたちのイメージと少し違っていました。
「伝統工芸」ってそもそもなんだったんだっけ?
そんな本質について、お話をしていただきました。
―伝統工芸というと、「弟子入りして、師匠の仕事を見て覚える」というイメージがありますが、お二人はどういう経緯で家具職人を目指したのですか?
(関谷さん)
私は、小さい時から職人を目指していた、とかそういうことはなくて。学生時代は、宮城工業高等専門学校(現・仙台高等専門学校)で情報デザインを学んでいたんです。
でも、進路を考える時期になっても、デザインの方面でなかなか自分の道を見出せなくて。そんなとき、ちょっとした山を持っている祖母から「木は、せっかく苦労して育てても、何にもならん」という愚痴を聞く機会があったんです。
なんか引っかかるものがあって。地元で木があるのに、地元でつくられる家具には使われないんだな?おかしいな?って。
―関谷さんは、昔から木材に興味があったんですか?
(関谷さん)
まったくなかったんですが(笑) でも、裏山で遊んだりして、木はなんとなく好きだったんでしょうね。裏山には、杉の木がうっそうと茂っていて。昼間でも暗くて、秘密基地みたいで。こういう木に付加価値をつけられないかな、とおぼろげに思ったのが始まりでした。
―関谷さんは、その後埼玉の職業訓練校で木工の技術を学んだんですよね。その後就職した家具の工房で、佐々木さんと出会ったとお聞きしました。
(佐々木さん)
そうですね。私の実家は3代続く建具店で。ものづくりは昔から好きでした。関谷さんと出会った会社では、その時、東京駅の駅舎の建具の復元を担当していて。それを一緒に担当したんです。
―その後お二人は独立し、「木響」がスタートするわけですが、どういう経緯で「仙台箪笥」にたどり着いたのですか?だれか師匠のような人から教えを受けて製法を引き継いだ、というわけではないですよね?
(関谷さん)
たくさんの方に教えてもらったり、支えてもらったりしながら、ですね。
仙台箪笥をつくるのには、たくさんの職人が必要です。木を扱う木地師も、漆を扱う職人も、金具をつくる職人も、みんながそろって、ようやくひとつの箪笥ができます。仙台や宮城には、仙台箪笥に関わる職人がいるんです。
ひるがえってわたしたちの原点は、「地元の素材を使って、地元の技術でものをつくること」です。仙台箪笥も、やはり親和性が高いんですよね。
―仙台箪笥の技術は、どうやって習得したんですか?
(関谷さん)
最初は、古い箪笥の修理から始めたのですが、見様見真似です。それまでのキャリアで家具ならおおよそいろいろなものをつくれる自信があったので、こうしたらいいかな、このやり方はどうかな、と試してみて。それで分からなかったら、知り合いの職人さんに聞きに行く。
―なるほど!教えてくれるものですか?
(関谷さん)
伝統工芸って、伝承が難しいとか偏屈とか、そういう閉じたイメージがありますが(笑) やろう!という気持ちを持って懐に飛び込めば、先輩方もうれしいのだと思います。「こう考えたんだけど、どうなんでしょう」と聞けば、情報交換させていただけるんです。
―仙台箪笥を守るために必要なことって、何だと思いますか?
(関谷さん)
うーん、難しいのですが…。ちなみにこの小さいほうのタンス、いくらだと思いますか?
―え、高いだろうなとは思いますが…。50万円くらいでしょうか。
(関谷さん)
売値で300万円です。
―え!高!
…すみません、思わず…
(関谷さん)
高いと思うでしょ。でも、この箪笥をデパートなどで売ろうとすると、まず7掛けになるから、220万円くらいになる。
ちなみに、この金具が仙台箪笥の特徴のひとつなのですが、この金具が完成するまで、職人一人でやって5か月くらいかかる。それで100万くらい。
箪笥そのものの木地代が50万くらい、漆が50万くらい。木で箪笥をつくり始めてから完成するまでに、早くて半年くらいです。
―さまざまな職人が関わって、1年かけてつくったものが330万円。そう考えると、職人さんの人件費をカバーするのもギリギリですよね…
(関谷さん)
そうですよね。技術料やデザイン費のようなものすら、ほとんど上乗せできていない感覚があります。
でもやっぱり、現代の感覚だと、箪笥にかけるお金として330万円は、高いなという感覚になってしまう。そう考えると、時代に必要とされていないのではないかな、と思わざるを得ないですよね。
仙台箪笥の魅力は、この美しさだと思うんですよね。
透明感がある漆の美しさ、引き出しの配置やバランス。引き出しの一個一個にも、着物を入れるのか、刀を入れるのか、使い方によって調整してきた絶妙なバランスがある。
この金具の絵柄も、厄払いとか、使っている人を守るような願いが込められている。
そういう生活に根付いた美しさは、すごいですよね。感動します。でも、それを次世代に残すために守り続けなきゃ、というのは、なにか違う気がするんです。
この美しい箪笥が世間に求められていないと思うと、鬱屈とした気持ちになりますが…。
でも、箪笥の本質は、暮らしに寄り添うためのものです。仙台箪笥が内包しているそういう本質の部分を、「伝えていく」ということが大事なのかな。
どういうやり方がいいのか、まだ見つけられてないような気もするのですが、仙台箪笥の本質や美しさは、わたしたち自身の日々の仕事にも関わってくるとも感じています。
地元の木を使って生活が豊かになるような家具をつくり、木っ端やおがくずは薪ストーブに使って、また木を育てて…。そういう営みの中に、仙台箪笥の技術が残って、何らかのかたちで後生に伝えられたら。
簡単に答えが出る問題ではないですが、私たちはそんな感じで仙台箪笥に関わり続けていくのかなと今は思っています。
東北の伝統的工芸品 みちのくの匠(東北経済産業局ホームページ)
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_densan/index.html
伝統的工芸品とは(東北経済産業局ホームページ)
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/densan-ver3/index_densan.html#link02