奥会津で、一生ものに出会う。
はじめまして。とーかくライターの、もよさんです。
みなさん、バッグは好きですか?
生活をするにも、もちろんおしゃれをする上でも、かかせないアイテムです。
私の母も大好きで、特に母はこの籠バッグを長年大切に愛用しています。
実はこのバッグ、「奥会津編み組細工」といい、山ブドウの皮を使い、手作業で作られているんです。
その歴史は100年以上に及び、経済産業大臣により「伝統的工芸品」の指定を受けています。
伝統的工芸品というと、伝統的技術・技法を用いられた価値あるものということは理解しつつも、格式高いイメージもあり、私生活の中で実際に使っている様子がなかなか目に浮かびにくい・・・といった印象を抱いていましたが、母が伝統的工芸品を使っていたなんて!
実際の使い心地は、どうなのでしょうか。
編み組細工製品を使う楽しさを、母はこう語ります。
①壊れた時は、工人さんに修理をしてもらえるので、長く使える。(母の愛用歴は10年ほど)
修理まで対応してもらえることに、驚きました。
②使えば使うほど、艶が生まれて素敵な味わいが生まれる。
こちらは母の愛用している編み組細工の財布ですが、(上:2代目、下:1代目)確かに、下の方が艶があり、柔らかく手になじむ形になっているような印象です。
③心を込めて丁寧に手作業で作られた、あたたかみがある。
1点1点、手作業でつくられていると思うと、たしかにあたたかさを感じます。
・・・とても素敵!
どうやら母は、奥会津三島町で開催された「ふるさと会津工人まつり」というイベントにて、およそ10年前にこのバッグを購入し、工人さんに修理をしてもらいながら、大切に愛用しているようなのです。知らなかった!
先ほどの財布も、その工人さんが制作されたそうです。
母の話を聞き、編み組細工の魅力に気付いた私は、その工人さんに直接会って、話を聞けないかと思いつきました。
ということで、取材にいってきました。
「奥会津 三島町」
仙台から車で2時間半、只見線沿いの美しい風景を満喫しながら、到着したのは工人さんのご自宅。
「遠くからよく来たね~」と、優しい笑顔とともに、あたたかく出迎えていただきました。
さっそく、編み組細工はどのように編むのか、話をお聞きしようとしたところ、編み組細工は山で材料採取を行うことからはじまるとのこと。
まずは山から材料を採取し、時間をかけて乾燥・浸水させます。その後、バラバラの皮の幅を道具を用いて一つ一つ揃え、ようやくそこから製品を編んでいきます。形や編み方に決まりはなく、組み合わせは自由自在。1からデザインを考えています。
長い長い時間をかけて、つくられているのですね。
ハナヨさんは、工房などではなく、基本的に自宅の一角で編み組細工の制作をされています。その様子が、生活の一部に伝統的工芸品が溶け込んでいるようで、素敵に感じました。
今回は特別に、制作されている途中のバッグを見せていただきました。
完成の様子が、こちら。
山で採取された自然の素材が、均一に編まれている姿に、美しさを感じます。
現在おふたりは、「ふるさと会津工人まつり」に向けて、多くの作品作りに取り組んでいるそう。毎年6月に開催され、林の中にテントを貼り、自然に囲まれた中で、編み組細工のバッグや小物を販売します。(店舗数はおよそ180!毎年、全国から多くの来場者があるそうです。)
まさに私の母も、工人まつりでバッグを購入した一人です!
おふたりは、工人まつりの場で、自分の作った作品を直接お客さんと会話しながら購入してもらえることが、何よりも嬉しいと、笑顔を見せてくれました。
また、母が教えてくれたとおり、自分のつくった作品が壊れてしまった時は、修理にも対応している、とハナヨさん。
「大事に使ってくれる人が多い。長い間使われて、修理を依頼された編み組細工を見ると、また作ってあげたくなるんだ。」
優しい表情で語るおふたりの姿が、印象的でした。
「たくさんの編み組細工の作品が展示されているから、ついてきて。」
おふたりに案内いただき、編み組細工の歴史をより深く学ぶため、「三島町生活工芸館」を訪れました。世代を超えて、編み組細工の伝統・文化を守り続けていくための拠点施設です。
優しい館長さんに案内していただき、館内をあちこちめぐりました。
館内には、三島町の工人さんが制作された、多くの編み組細工が並んでいます。
館長さん「形や編み方はすべて異なり、世界に1つとして同じものはないんですよ。」
1点ものの中から、自分だけのとっておきの1品を見つける・・・とても胸がときめきますね。
編み組細工は、「農家の方々が、野菜などを運ぶ際、背中に背負う籠」がはじまりです。
このように「生業」ではなく、あくまでも「生活用具を作るため」に、編み組細工は誕生したといいます。
三島町は、自然からいただいた素材を用いて、自らの手で生活用具を生み出す文化が根付いているのです。
手作業でつくられた作品からは、確かに人々の生活に寄り添ってきた、あたたかみを感じます。
人々の生活に根差した、伝統的工芸品。
それが、奥会津編み組細工です。そのため、この建物の名称も、伝統工芸ではなく、“生活”工芸と称している、と館長さん。
たとえばこちら、何に使うものだと思いますか。
正解は、「雪踏み俵」といい、深く雪が積もった際に履く生活用具です。豪雪地帯ならではの発想で誕生しました。
では、こちらは何でしょう。
こちらは、お米を研ぐ笊(ざる)です。
マタタビでつくった笊は、水切れがよく、野菜を洗ったり、お米を研いだりと、台所用品として使われてきました。この笊でお米を洗うと、濁り汁の吸収を避け、あたりが柔らかいのでお米の割れや傷を防ぐことができ、お米本来のおいしさを引き出すことができるのです。
伝統的工芸品である編み組細工が、人々の日常生活に取り入れられており、伝統的工芸品と暮らしを共にしているように感じられました。
こうした技術は、後世にどのように継承していくのでしょうか。
気になって尋ねたところ、「三島町生活工芸アカデミー」という取り組みを教えていただきました。
三島町に1年間暮らしながら、町の生活文化・民俗行事・農林業などの農山村生活実践体験や、生業の一つとして編み組細工の実践体験にて、生活工芸や伝統文化の継承・地域の活性化などの担い手を目指すプログラムです。
受講料は町が負担し、町が用意した一軒家で生活をします。
現在は6期目で、私が工房に訪れた日にも20代~40代の女性が、和気あいあいと編み組細工の技術を学んでおりました。「ふるさと会津工人まつり」などで、編み組細工の魅力を知り、関東圏からこのプログラムに参加をされる方も、とても多いそうです。
三島町生活工芸館を案内してくださったみなさまと。
伝統的工芸品というと、どこか格式高いイメージがあり、私生活の中で実際に使っている様子がなかなか浮かばない・・・といった印象を抱いていた私ですが、
・編み組細工のバッグや財布を、何度も修理し長年大切に愛用する母
・編み組細工の作品をつくる工人のハナヨさんとフミエさん
・生活用具として編み組細工を使用している三島町の方々
・編み組細工の魅力を知り、その技法をイチから学ぶアカデミー生
伝統的工芸品と暮らす人々が、確かに存在していることに気付くことができた取材となりました。
奥会津編み組細工の魅力をたっぷり学んだので、来年の「ふるさと会津工人まつり」はぜひ、母と2人で訪れようと思います。